昭和婦人

終戦の直前に北陸の農家に末娘として生まれた、ごく平凡でな女性の人生のお話です。

4、北端の新天地と新婚生活

 不本意ながら綺麗な着物を着て見合いの席についた恵美子。

その時の見合い相手が正之、のちに夫となる相手でした。もともと結婚に興味がなかった恵美子は、互いの紹介をした仲人が退席した後ろくに正之と話もぜずに,食べるものだけ食べてさっさと帰宅しましたが、その日のうちに先方から恵美子が気に入ったと連絡を受け、恵美子も返事をせざるを得ない羽目に。

  兼ねてからの恵美子の見合い相手は医者や地元の名士や地主の子息などなどよっぽどよい条件の相手ばかりでした。

 そこそこ良い家で、若くて器量の良いほうだった恵美子には選びたい放題で、なんの取り柄のない、自分の家より小さい小作人農家の末っ子で、しがない会社員の正之など到底受け入れられる望みなどなかったはずですが、正之のたった一つの条件が恵美子の興味を引きました。

 小さな農家の7人兄弟の末息子で実家からは継がしてもらえる財産など全くなく、名古屋の無名の大学を出て東京で会社員をしており、すでに北海道に転勤が決まっていた正之。

 とにかく田舎に留まりたくなかった恵美子にとっては、正之は唯一、多々いる見合い相手の中でも好都合だったためあまり深く考えずに、つい2つ返事をしてしまいました。

 後から考えればずいぶんと軽はずみなことをしてしまった恵美子。長兄は、恵美子の気が途中で変わっては大変とでも思ったのでしょうか、あっという間に結納、結婚式と話は次々に進み、お見合いから数ヶ月後には恵美子は北海道に旅立っていました。

 当時は青函トンネルもなく、長い電車に揺られて青森まで到着。本土の北の先端から連絡船に乗り未知の北の大地に降り立った若いカップルの恵美子と正之。

 その時初めて自分の軽率さを後悔した恵美子でしたが、時すでに遅し。盛大な結婚式をして家族親戚たちに送り出された直後にいかなる理由でもさっさと実家に帰れるはずもありません。ほぼ他人である正之とたった二人で最果ての北の大地で新生活を始めざるを得ない恵美子。友人も知り合いすらも誰もいない、札幌。

たった22歳で、それまでお金の不自由な生活なども知らない世間知らずの恵美子にとって、未知の新しい土地で夫婦として、嫁として生活を始める不安と大変さは、想像を絶するものだったに違いありません。